こんな本を読みました。

2008年05月25日22:50『インシテミル』
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f6fb4631.jpg今年はブックレビューがぜんぜんできなくてごめんなさい!
あまり、お楽しみ読書をしていない、というのもあるんですが。今年は資料本とか、仕事関係の本を読むので時間いっぱいな感じです。
でも読了本の中から、できるだけレビューもしていきますね。

ここ数年で青春ミステリのニューウェーブとして人気作家となった米澤さん。何年前だったか、パーティの二次会でお話した時は、シャイで真面目な青年で、たまたま取り囲んだ女性作家の迫力にたじたじとなっておられましたが(^^)、今やすっかり人気作家で、存在感もありますね。

本作も今年度の本格ミステリ大勝候補作。受賞は逃しましたが、候補作の中でも個性的という点では、いちばん個性的だったかもしれません。

枠組みは、隔離された空間でのサバイバルゲーム。ただのサバイバルと異なるのは、推理ゲームの要素と賞金(時給の割り増し加算)という「利益」とが発生する点です。
孤島皆殺しもの(クローズドサークルもの)では、たいてい、強烈な憎悪等の「殺人の理由」が裏にあって、どろどろした人間関係が下地になっているわけですが、本作はその点、ニューウェープらしい処理の仕方で、呆気にとられるほどシンプルな構図が示されます。

さらに、その構図そのものがある種のひっかけになっていて、ラストで明らかになる「動機」には、正直、驚くというか、思わず「合点したぜ」と手を打ってしまいましたよ(^^;;;

細かいところでつっこみどころというか、ちょっと疑問点もあったりするものの、全体によく練られていて、達者だなあ、と感心。
ただ、ニューウェーブたらんとするあまり、作者本人の作風というか資質とは異なる展開にしようという「勇み足」が感じられて、その点の「不徹底さ」が、わたしが本作を大賞には選べなかった理由のひとつです。もっとはじけてしまった方が、本作の個性は活きたんじゃないかな。

いずれにしても、高いミステリ・センスを感じさせる作品。
倫理的問題などを気にする読者向きではないんですが、小説と割り切って体験すれば、スリリングな一夜になること請け合いです。

米澤穂信
文藝春秋
ISBN978-4-16-324690-1
1600円+税

2008年04月24日15:21『密室殺人ゲーム王手飛車取り』
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7541e4f9.jpg本年度の本格ミステリ大賞候補作の一作です。

歌野さんなので、一筋縄ではいかない凝った本格だろう、というのは覚悟で読み始めましたが、いやいや、第1話からほんと凝りまくり(^^;

謎解きゲームを楽しむために実際に殺人を犯す、というシチュエーションには賛否あるかと思いますが、その部分を追求することが作品の目的ではないと思うので、わたしは特に抵抗なく読みました。

ただエキセントリックにしたいがため、あざとく、本当に殺人を犯している、という前提を用意したわけではなく、それ自体がきちんと仕掛けになっていて、その前提が謎解きに重要な役割を果たしています。なので、まあ必然性のある前提、だと考えていいと思います。

それを踏まえた上で読み進めたんですが、やっぱり、まんまとひっかかっちゃったよ(^^;

特に気に入ったトリックがあるんですが、それを書いてしまうとネタバレですから、まあ読む方はそれぞれお楽しみに。

ラストが意外におセンチというか、なんとなーく、作者自身がこの「リアル殺人推理ゲーム」という前提にしんどくなっちゃったのかな、という気がしてましたが、これで続編が出るようだとある意味、すごいかも(^^;;;

いずれにしても、目くじらたてずに、本格物としてのすぐれたアイデアや構成を楽しむといいんじゃないかと思います。

候補作となっただけあって、それぞれに使われているトリックやプロットはどれも一級品です。連作短編集のように読めますが、それぞれが密接に関連しているので、やはり長編と考えたほうがいいですね。

歌野晶午
講談社ノベルス
ISBN978-4-06-182513-0
990円+税

2008年04月22日16:58『ピーチツリー探偵社』
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0364246a.jpgこのブログでちょっと前に紹介した『桃のデザートには隠し味』は舞台がテキサスでした。

本作の舞台はジョージア州アトランタ。ジョージア州もテキサス同様、桃の産地として有名なんだそうで、ジョージア州にはピーチのつく通りや地名がとても多いそうな。
まあ日本でも、桃といえば岡山と福島、というように、産地はいろいろありますが……

それはともかくとして、いやー、この本、邦題からてっきりコージー系の軽い私立探偵ものかなと思ったら、これがびっくり、なかなかにハードタッチ(でも文体は軽やかでするする読めますが)な、サスペンスでした。
ジェットコースター・ハードボイルド、なんてわけわかめな煽りが裏表紙に出ていますが(笑)、確かに展開がすごく早くて、息もつかせぬ、という感じ。

でも暗くはなくて、笑える場面もけっこうあり、なんといっても主人公の女探偵がすっごく魅力的。すごく小柄でわりと美人ながら、男運が悪く、能天気で性格も趣味も正反対の母親には「金持ちをみつけて結婚しろ」攻撃を連発され、優秀だけど悩み多き弟との交流がなかなか胸きゅんだったりもして、公私ともに超多忙。しかも、無責任なオーナーのせいで事務所は倒産までカウントダウン状態に陥り……

とにかく面白かった。この手の、凝ったプロットと早い展開の私立探偵物が大好物のわたしにはまさにドンピシャリとハマりました。2002年に出た文庫なのに、今まで読まなくて損しちゃった、って感じ。
男性作家が書いた作品なんですが、女主人公が自然で無理がなく、とてもキュートだけどとってもヘンな女で(笑)、好きだなあ、この手のヒロイン。

だけど結末は少しビターです。かなり強引ではあるけれど、この終わり方はなかなか作者が「やるわね」って感じで。
作者の物語に対する姿勢に奥行きを感じました。

うーん、わたしの作品でいえば、ハナちゃんのシリーズと少しだけ似ていなくもないんですが、ある意味、ハナちゃんよりダークで、このくらいのアイロニーはきかせてもいいかな、と勉強にもなりました。

これ、もう書店ではあまり見かけないのかな。手に入ったらぜひ読んでみてください。おすすめです。

ルース・バーミングハム
原題 ATLANTA GRAVES
宇佐川晶子 訳
ハヤカワ文庫
ISBN4-15-17252-9
840円+税

2008年04月16日20:06『桃のデザートには隠し味』
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e99cbf2a.jpgなかなかブログの更新ができなくてすみません〜

仕事も雑用も山積みです。まだ新しい仕事部屋はしっちゃかめっちゃかです。
読書もほとんどできない有様ですが、読了したものもたまって来たので、少しずつご紹介。

一昨年にアメリカで出た作品で昨年の12月に日本で刊行されていますから、翻訳されるスピードがとても早かったですね。コージーも、翻訳物は着実に読者が増えているようです。

2006年の作品ですが、雰囲気はとっても懐かしいというか、なんとなく30年くらい前の作品かしら、という感じ。ちゃんと現代的なアイテムも出て来るんですが、舞台となっているのがテキサスの田舎町だからでしょうか。

主人公は定年退職して夫にも先立たれた元教師のフィリス。テキサス名物の桃を素材にした料理コンテストで、今年こそ優勝したいと特製のピーチコブラー作りにいそしんでいます。彼女の古い大きな家は下宿屋を兼ねていて、住んでいるのは同じように退職した元教師の女性たち。

老齢と呼ばれるほんの少し手前くらい、定年後ということですから六十代に入ったくらいの女性達でしょうか、でも会話は若々しく、色気が過多で女として現役の人もいれば、フィリスに子供っぽいライバル意識をむき出す人もいて……

この田舎町で起こる殺人事件、さらには料理コンテストで町の有力者が殺され、嫌疑が下宿人であり親友である女性にかかったことから、フィリスが素人探偵に……という、典型的なパターン。安定感のある筋運びと、いたずらにバタバタしない丁寧な構成で、さらりと読めるコージーになっています。主人公の年齢設定がなかなか微妙で巧い。夫に先立たれ、子育ても終え、年金と下宿代とで生活にも心配はない、なんだかものすごく羨ましい境遇ではあるフィリスですが、裏を返せば「とりたててやることがない」状態。そのフィリスが本作をきっかけに、おそらくは料理コンテストマニアになり、さらには素人探偵として腕を磨いていくんだろうなあ、と、次作を想像させる設定。

素人探偵の常で見当違いな疑いをもって無実の人に迷惑をかけるのは、まあこの手のコージーではお約束みたいなものですが、迷惑をかけたことへの反省というか、謝罪がまったくない、というのがちょっと気になるかなあ(^^;;;;

まだ本作だけでは、フィリスという主人公にハマるというところまではいきませんでしたが、はじめての男性下宿人となったサムの存在感がとってもいいので、彼にまた逢えるのが楽しみです。本国では続編も好評とのこと、続きも出そう。

ピーチコブラーって食べたことないんですよねー。ピーチパイの一歩手前みたいなお菓子だよ、と、アメリカに留学していた人から教えて貰いましたが。アメリカの「桃」は、黄桃で、そのまま食べるとかなり酸っぱくてかたいそうな。なので、コブラーやパイ、ジャム、シロップ煮など、火を通して食べる方が一般的だそうですね。
日本では黄桃もけっこう高いけど、季節になったら、コブラーを作ってみようかな。

リヴィア・J・ウォッシュバーン
原題 A Peach of a Murder
赤尾秀子 訳
ランダムハウス講談社
ISBN978-4-270-10143-8
800円+税

2008年03月29日16:58『ジェネラル・ルージュの凱旋』
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857e956a.jpgこのミス大賞のシリーズ、第三弾。といっても、実は四作目というか、角川から同じ東城大学病院と桜宮市を舞台にした『螺鈿迷宮』が出ています。

本作は、前作とほぼ同時進行している「もうひとつのお話」。前作は殺人事件の絡むミステリーで、とても哀しい物語でしたが、本作は事件のスケールはぐっと小粒に(^^;、付属病院内部のいわば権力闘争というか、内部抗争の物語になっています。ただ、提示された日本の医療に対する問題提起は、とても深刻で奥が深い。表面だけ読めばスター扱いのジェネラル・ルージュも、見る角度を変えれば、医療現実の矛盾から生まれたモンスターに他ならず、彼のすべてが正しいとはとてもいえない。悪役というか敵役も出て来るのですが、また別の面から考えたら、その人の言っていることにも「理」はあり正義はあります。その人の言葉のすべてを無視し、ただ医療現場の便宜性だけを肯定すると、実は我々患者にとってものすごくおそろしい未来が待ち受けているのかもしれない。
そういったこともすべて含めて、バランスよく配置された物語です。作を重ねるごとに大袈裟な表現や芝居がかった言葉の選び方が増していますが(^^;、それに慣れれば、するすると読めるリーダビリティはさすが。

でも本作では、白鳥くんの爆裂ぶりがあまり見られなかったので、白鳥ファンには少しさびしい(笑)

海堂 尊
宝島社
ISBN973-4-7966-5754-9
1600円+税

2008年03月25日14:18『クッキング・ママの遺言書』
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3e52d6bc.jpgブログの更新がなかなかできませんが、たまるとあとで大変なので、ちょっとずつ。

シリーズのこれが最新作というか、今のところ最後の作品ですね。でもアメリカでは続編も出ているので、じきに日本でも続きが出るでしょう。

まずは表紙にまたまたびっくり。前作で、ずーっとシリーズの表紙を飾っていたイラストが変わり、まったくテイストの違うものになっていたんですが、今回また変わってしまいました。今回は写真を使ってますね。個人的な好みでは、前作のイラストよりは好きですが、やっぱりその前の、シリーズをずっと飾っていた、あの個性的なイラストが懐かしいなあ。
これからは写真になるのかな?

前作でDV夫が死に、あらたな「敵」となりそうな保健衛生検査官が登場しましたが、本作ではその人は特に関係なく物語が展開。

このシリーズはもともと、コージーにくくるにはかなりヘヴィな要素が多かったんですが、本作に至って、いよいよコージーの枠を意図的にはみ出しているという感じを受けます。いきなり殺人事件勃発の上、延々と続くのが、被害者の家族の悲嘆にくれる様子。重たい。かろうじて、間にはさまる料理の場面でホッとするけれど、全体に「楽しく読めるミステリー」とは言いがたい雰囲気に包まれています。

でもレギュラーな登場人物がいい味を出しているので、読むのはするする読めてしまいますね。だいぶましにはなったとはいえ、まだムカつく生意気な息子が気にはなりますが(笑)、ゴルディの奮闘ぶりにはやっぱり拍手したくなっちゃう。がんばるなあ、おかあさん。でも、自分で事態をややこしくする癖はなんとかしろよ(笑)
それにしても、夫がよすぎ。この夫なら、世界中の女性が結婚したいと思うんじゃないかしら(笑)

今回は、料理が直接ミステリーを解く鍵になっているので、お料理ミステリーの本領発揮、といった面もあります。ただ、最後にばたばたと動機の説明が続いて、いきなり風呂敷がたたまれてしまうので、横文字の名前がなかなか頭に入らないわたしには、人物表を読み返さないと何がなにやら、という感じだったのが、ちょこっと残念かな。

作者の作風が変化してしまったのでしょうが、次回作はもう少し、コージーらしい軽さ、楽しさも期待したいです。
今回の料理レシピは、そのまま作れそうなのばかりでポイント高いですよ。

ダイアン・デヴィッドソン
原題 DARK TORT
加藤洋子 訳
集英社文庫
ISBN4-08-760520-5
781円+税

2008年03月11日22:01『クッキング・ママの鎮魂歌』
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ca2214e7.jpgシリーズ12作目です。
表紙にびっくり。これまでの表紙はすべて、植村範子さんという方の絵だったんですが、とても個性的で味があって、けっこう好きでした。カワイイ系じゃなくて、ちょっとごつい感じがあるんだけど、それがこのシリーズの性格とマッチしてて。

新しい表紙は……うーん。イラストの良し悪しはわたしにはわからないのですが、イメージとして、だいぶ違うなあ、と。というか、中身読んで描いたイラストには思えない(^^;;;;; す、すみません……
でもこのシリーズって、いわゆるコージーとは少し違って、かなりヘヴィな部分が多いわけです。邦題が「クッキング・ママ〜』と軽いので勘違いする人も多いとは思いますが、夫の家庭内暴力、離婚、シングル・マザーの貧困、社会格差、そして再婚、思春期の子育て……と、現代の女性が抱える問題をすべて内包したつくりになっていて、その「濃さ」には驚くほどです。もちろん、テンポが早くて読み心地は軽いんですけどね。
新しいイラストは、邦題のイメージから描かれたもののような印象をどうしても受けてしまいます。夫のトムらしき男性が、ホームズみたいなパイプをくわえたり拡大鏡を持っているのもすごくヘンだし。トムは典型的なアメリカの「善良で正義感の強い男」であり、しかもコロラド(金持ちがカウボーイ・ハットをトレードマークにするような土地柄)の警官ですよ。間違っても、スーツにパイプと拡大鏡は持たないでしょう(笑)
でもイラストレーターはアメリカ在住らしいので、ちゃんとわかっていてあえてはずした、ということなんでしょうね。

ま、いっか。実はシリーズ13作目はまた表紙が変わっているので(笑)、この本の表紙に文句つけてもあんまり意味ないですね。

内容ですが、シリーズ中いちばん深刻かもしれません。というのは、ゴルディを苦しめていた元夫、ジョン・リチャードが殺されてしまいます。当然ながら、ゴルディも容疑者に。
この、暴力カバ夫が「病的な反社会性性格」であった、という冷静な分析を、死後にようやくくだしたゴルディが悲しい。実際に暴力をふるわれ恐怖に支配されてしまうと、心理学的な知識がいくらあっても、相手を「モンスター」としか考えられなくなる。DV問題の深刻さというのは、そういったところにもあるわですね。身近な人、一度は「愛した」人から破壊的な暴力をふるわれる絶望感というのは、なかなか、部外者には理解できないものだと思います。

展開はますますヘヴィですが、料理はいつもの通り、すごく美味しそう。
このシリーズはもう、コージー、というよりは、ドメスティック・サスペンスと考えた方がいいと思いますが、お料理のシーンはコージーらしく、心地よくてよだれもんです。

ダイアン・デヴィッドソン
原題 Double Shot
加藤洋子 訳
集英社文庫
ISBN4-08-760495-0
819円+税



2008年03月11日20:46『夜はわが友』
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671716e4.jpgE.D.ホック(ご本人は、E.Dと呼ばれるのはあまりお好きではなかったそうな。エドワード.D.ホックと書いた方がいいのかな)が少し前に亡くなって、同業者にはファンも多かったので、みんなとてもさびしがっています。
わたしもさびしい。

ホックと言えば、トリッキーな短編の名手、という印象が強く、実際、サム・ホーソーンのシリーズや怪盗ニックのシリーズなど、本格ミステリ・ファンを魅了するシリーズをたくさん出しています。このシリーズ・キャラの多さでもホックは他の作家の追随をゆるさないくらいで、生涯を通じて、読者を楽しませることに徹底した作家として、我々エンタテインメント作家の尊敬も集めている人。

が、しかし、その反面、人物描写が薄いとか、人間の内面に踏み込まないのが物足りない、物語性が弱いなど、ホックの作風に批判が多かったのも事実でしょう。

本作品集は、そんな、「ホックは人間が描けない」という偏見を打ち砕く、奥の深い人間のいとなみ、性、業、そして人生の機微を描いた、「非トリック系」作品の作品集。
巻末の解説によれば、本国アメリカで出た親本にはあのトリックの名作「長い墜落」が含まれていたらしいのですが、日本では、「長い墜落」はサム・ホーソーンの短編集の方に収録されました。そのため、よりいっそう、本作品集にはホックにとっての「異色作」が集められた印象が強まり、ホックの作品の中では本当に特別な一冊である、という感じがします。

わたしはもちろん、トリッキーでパズルとしても優れた、ホックの、本格推理系作品のファンですが、本作品集には驚くとともに、ホックの力量をあらためて知りました。
淡々と、ハードボイルド的な筆致で綴られていく「人間」と「人生」。まるでフィッツジェラルドの作品集を読んでいるような感覚を味わいました。

ホックなんて、なんか浅くてさ、と読まず嫌いの方や、トリッキーなものよりも人生を繊細に描いたものが好き、という方は、ぜひ。

収録作品 「黄昏の雷鳴」「夜はわが友」「スーツケース」「みんなでピクニック」「ピクニック日和」「虹色の転職」「待つ男」「雪の遊園地」「冬の逃避行」「夢は一人で見るもの」「秘密の場所」「標的はイーグル」「蘇った妻」「おまえだけを」「こういうこともあるさ」「キャシーに似た女」「人生とは?」「初犯」「谷間の鷹」「陰のチャンピオン」「われらが母校」

エドワード.D.ホック
原題 The Night My Friend
木村二郎 訳
創元推理文庫
ISBN4-488-20123-2
980円+税

2008年02月28日20:10『クッキング・ママの供述書』
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8dadb278.jpgシリーズ第11弾。10作目は以前に読んでいたのでとばしました。

主人公ゴルディの、学生時代のコーヒー友達が登場。すごいイケメンらしい。ゴルディ、って、記述の通りだとしたら小柄で少し太めで、髪の毛が天然パーマのくりくり、決して美人ではない、という設定のはずなんですが、前夫のジョン・リチャードはものすごい美男子で学生時代からモテまくっていたというし、ゴルディに学生時代、気があったらしいこのコーヒー友達もいい男だし、なんやねん、ほんまは美人なんとちがう?  と、ちょっとむかつく(笑)

まあそれはともかくとして、本作は、初期作品にテイストが似ています。ショッピングセンターで殺人事件。でも大切な仲間であるジュリアンが容疑者となってしまって、ゴルディが必死で真犯人を追います。
まあ、ゴルディが異様にでしゃばりで(笑)、つっこまなくていい首をあちこちにつっこんで事態をややこしくするのはいつものパターンなのでいいのですが、今回はほんとに、息子のアーチにむかつきました。
いくら離婚で心に傷をおってるからといっても、ここまでこの我がまま息子のご機嫌をとる必要がどうしてあるのか、理解できなーい。

わたしにもアーチと同世代の息子がいますが、少なくとも、欲しいものを「買ってくれて当然」なんて態度とったら、家から叩き出しますよ(笑)
まあうちもたいがい甘いので、欲しがっていそうなものは結局、買ってやっちゃうんだけど、それでも、買ってくれるのが当たり前でしょ、なんてことは絶対に言わせない。誕生日のプレゼントを指定するところまではゆるすとしても、「早く買え」とか「いつ買いに行くんだ」なんてエラソーな態度とったら、げんこつの一個も落としてますがな。ええ。
アメリカの中流家庭って、こんなに子供に甘いのがふつうなんですかね?
しかも、複数のプレゼントをねだった上に、どこまでもエラソーに母親に命令したりさからったり。
うーむ。
こういうのが思春期のふつうの態度だとするならば、うちの息子、ものすごい、ええ子やんか!(笑)

ま、家庭によって考え方はちがって当然、子供の個性も千差万別ですから、アーチにはアーチのいいところもあるんでしょうが、離婚して再婚する、ってこと自体は、いつまでも「だからかわいそう」と甘やかしていい理由にはならないんじゃないかなあ。
それも人生なんだから、16歳にもなったらしっかり受け止めてもらわないと。
ゴルディ、もっと毅然としなさい!

というわけで、なんかフラストレーションはたまりましたが(笑)、その前に『メールオーダーはできません』を読了したので、あちらの主人公ルーシーに比べたら、生の女って感じがして、必死なゴルディがやっぱり好きだな。

相変わらず、料理のレシピには生唾ごっくん。夜中には読まない方が美容と健康にはよさそうです(^^)
買い物依存症の実態も、アメリカ的な依存症が興味深かったです。

ダイアン・デヴィッドソン
原題 Chopping Spree
加藤洋子 訳
集英社文庫
ISBN4-08-760443-8
800円+税

2008年02月28日16:34『メールオーダーはできません』
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568fe3f3.jpg今年はコージーばっかりだなあ。でもコージーが大好きなので、コージーばっかり読んでても楽しい。
忙しい時は、合間合間にちょこっとずつ読めるコージーに限ります。

本作は昨年の秋に出た新しいシリーズですが、アメリカで刊行されたのは1991年ですから、十七年前、ちょっと昔、って感じですか、そのくらいだと。
でもなんとなく、もっともっと昔の小説のような読後感です。1940〜60年代くらいのアメリカのイメージ。巻末の解説にも、ノーマン・ロックウェルの名前が出ていますから、訳者もそういう印象を受けたのかな。

というのも、舞台となっているメイン州の田舎町が、つい80年代まで、薪ストーヴだとか旧式のオーヴンを使っていたところらしいんですね。作中にそうした記述が出て来て驚きます。
主人公の夫婦は、ニューヨークで育ったのに、そうした田舎に憧れて、80年代にわざわざ越して来て住み着いたようです。そういうのが流行った時代だったのかも。同じように越して来た友達がいるみたいです。

でもそんな牧歌的な田舎町も、時代の波に洗われます。すでにインターネットが普及しはじめていた1991年のアメリカ。この田舎町に唯一といっていい企業が、通販会社で、主人公のルーシーもこの通販会社で電話注文のオペレーターとしてパートタイムをしています。基本的には主婦が本業、家中を掃除したり、手作りのクッキーを焼いたりと、模範的で常識的なふつうの奥さん。そして無責任なおしゃべりが好きだったり、セクハラに対して自意識過剰気味だったりと、ふつうの女の嫌な面をたくさん持ってます。なので、最初のうち、どうもこのルーシーが好きになれませんでした(^^;
とにかく差別意識が強く、ムシが好かないというだけで殺人犯だと思い込んだり、余計な計略を考え出して事態を混乱させたり、貧しい人に施しを、的におしつけがましい善行に走ったり。

この女、あまりにもアホじゃん。

というのが正直な感想(^^;;;;; でも、こんな女性が主人公のミステリ、というのは、ある意味わたしには新鮮でした。コージーといっても、わたしが好きなコージーの主人公は現代的でばりばり働く女性がほとんどで、こんな保守的でふつう過ぎる女性はいませんでした。

この、わたしがあまり好きではないタイプの主人公が、でもなんとなくだんだん気がかりになって来る、その流れが自然で巧みです。能天気で悩みがない女のようでありながら、母親の問題も抱えているし、牧歌的ではいられなくなったアメリカの田舎の矛盾が襲いかかってくるし、貧困層との接触という体験もあって、少しではあるけれど、ルーシーは成長した感じがあります。

ミステリーとしては、とりたててレビューする部分もないんですが(^^;、というか、事件解決のヒントになったオブジェの解釈があまりにも……(^^;;;; で、なんやそれは、と思っちゃいましたが(笑)、それでも、このシリーズがどう続いていくのか、ルーシーの女としての成長がちょっと楽しみで、続きが出たらまた買うな、きっと(^^)

アメリカの田舎町のクリスマス、その楽しさはいっぱい描かれていますから、そうしたアメリカを知りたい人、楽しみたい人にはおすすめです。

レスリー・メイヤー
原題 MISTLETOE・MURDER
高田惠子 訳
創元推理文庫
ISBN978-4-488-24803-1
820円+税