5cd89ac2.jpg作者の鈴木さんとは、デビューする前からの知り合いでした。と言っても、パソコン通信の会議室でレスを交わす程度だったんですが。
その鈴木さんと、デビューしてからとあるパーティでお会いした時、真っ先に言った言葉が「柴田勝家を書いてくださいっ」でした(笑)

わたし、勝家ファンなんですよー。と言っても、実は柴田勝家、名前だけはすごく有名ですが、その生い立ちや若い頃のことなどは、あまり文献も残っていないという、謎の人。
でも、あの織田信長が、一度は自分を裏切って弟と組んで謀反を企てたにもかかわらず、殺さずに重用し、ずっとそばにおいていた人ですから、たぶん、信長にして「殺したくない」と思わせるだけの、人間的な魅力とか、戦闘能力とか、いろいろな才があった人なんでしょうね。それなのに、最期は、お市の為に(と勝手に解釈しています・笑)、旧浅井領にこだわって秀吉の憎悪を買い、お市を秀吉から守るために(と、これまた勝手に解釈しています・笑)、亡夫を忘れられずに再婚を拒み続けていたお市をひきとり、わずか数ヶ月の日々、お市を慈しんで守って、死んだ。
なんとなく、とっても頑固で一途で、いいじゃないですかぁ。戦国の武将の中で、わたしがすべてにおいて素晴らしかったのだろうと思うのは浅井長政ただひとり、他は、信長も秀吉も家康もみんな嫌いです(笑) が、柴田勝家は、長政のようにいろいろなものに恵まれてこそいなかったものの、ダンディズムを感じてしまうのです。
男は、最期に何もかも捨てても、愛するひとを守り愛し抜いてこそ、男だぜっ。

でも鈴木さん、わたしの無茶なお願いを真面目に聞いてくださり「勝家は文献がないからなあ。難しいよ」と首をひねってくださいました。
あれから12年。

遂に、鈴木さんが描く「柴田勝家とお市」の物語の完成です!!!
もう、すっごく嬉しい(^^)
しかも、これまでいろんな時代物では描き得なかった、まったく新しい「小谷の方」(お市)に出逢えました!!!
一般にお市と言えば、信長の妹で、絶世の美女、でもなんとなく幸薄く、夫である長政と兄・信長との間で板挟みになったあげく、信長の窮地をあずき袋で救ったかと思えば(このエピソードは実話ではないらしいですけどね)、亡夫の面影にしがみついて再婚を拒み、最期はたった数ヶ月一緒に暮らした男と共に死を選ぶ、と、なんか主体性のない、運命に流されるままの気の毒な女性、というイメージがありますよね。

でも本作のお市は、ぜんぜん違います。幼少の頃から野山をかけまわり、信長と共に戦場にまで行き、こっそりと勝家の内妻をつとめ、長政の正室となってからは戦議にもくわわって信長を討てと進言、長政の首をしっかりと泣かずに洗いあげ、子を育て、信長に逆らって再婚を拒み、いよいよとなった時、初恋の男であった勝家のもとに再び飛び込んで、数ヶ月しかなかった蜜月を全身で堪能し、年老いた初恋の男と共に死んだ。
心底、強い女性として描かれています。
それも、すごいのは、勝家の内妻だった、という設定! うーん、そう言えば、お市って長政に嫁いだ時もう二十歳で、当時としては行き遅れもいいところの年増女、それまでいったい何してたの? なんで結婚しなかったの? って疑問はあるし、あれほど再婚を拒み続けていたのに、相手が勝家と決まったらすんなりと受けて、娘三人まで連れて福井にひっこみ、最期は、秀吉が命は助けると言ってるのに、やなこった、と勝家と死んでしまった。
本作の設定にそって解釈すると、すべてぴったり、はまっちゃうじゃないですか!(^^)

歴史ロマンって、作者がどこまで、史実の隙間をくぐって奥行きを広げ、そこに新しい世界を創造するか、が肝ですよね。
その意味でも、本作は、ほんとにすごいです。もう、本作のお市にはぞっこんです。

柴田勝家ファン、お市ファンには必読。
これは、二人の男への愛を心に抱いて生きていった、強い女性の物語なのです(^^)

鈴木輝一郎
河出書房新社
ISBN978-4-309-01812-6
1600円+税